「家にいるのかったるいんだよね、言ったじゃん。ウタだって俺みたいに親がうっとうしい時期あったでしょ」

「親とはうまくいってるんじゃなかったの」

「表面上は、だよ」


そう、言い放った紺の声は、びっくりするくらい冷たかった。人懐っこい温かな声から、くるりと冷えた声。思わず背中の一筋がぞっとするような。

私もこうなのか。私はよくドライすぎるとか、抑揚のない冷たい話し方だとか、低体温そうな性格だとか言われる。あの人にもそう言われた。

彼女に精神を酷使しすぎたせいなのか、私は家の外で気を遣うことや遠回しな物言いをすることに費やすエネルギーをなくしてしまった。ついでに感情表現をする神経さえも彼女に捧げてしまったから、私はココロを伝えることが苦手だ。

今私が紺に感じた冷たさを、周りは私に感じていたのかもしれない。


「あんた、気味悪いよ」


紺はアンバランスすぎる。

あどけなさと妙な物分かりの良さが、率直と気遣いが、無垢と諦めが、きっとぎりぎりのところで紺の中に存在している。コップいっぱいまで注がれた水が表面張力でなんとか形を保っているように。

時折感じた違和感は、このアンバランスさが原因だったんだ。


「気味悪いかー。初めて言われた」


紺はへらへらと笑っている。その顔を見たら、追及しようとした気持ちはどこかへ行ってしまった。

一時的にオカシクなっていただけだ。知りたいだなんて、思うわけない。