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「……はぁ…すぅ…」


息が自分の手の届かないところへ行ってしまう夜があった。

苦しくて苦しくて。心臓が暴走して、まだ吐いてもいないのに次の空気を吸ってしまうから、次第に追い付かなくなって苦しくて、意識が遠退く。

当時はそれが過呼吸だと知ることもなく、私はただ、自分のせいなだと思っていた。私が悪い子だから、これはバツなんだ。


息が苦しい夜は、きまってこっぴどく叱られたあとにやってきた。


「なんで言うことが聞けないの」
「何度同じことを言わせるの」
「あんたなんか産まなきゃよかった」
「もっとイイコがほしかった」
「どうしてあんたは何にもまともにできないの」


ガラスのコップを割ったとき、白いパーカーを泥で汚したとき、石鹸の泡のついた手で蛇口をさわっりその泡を洗い流さなかったとき、ピアノの練習曲で毎回同じ場所でつまずいたとき、それはそれはもうたくさん。私を目の前に座らせて、彼女は泣きながら繰り返し言った。

ワタシハワルイコ。ワタシハデキナイコ。ワタシハ、ウマレナケレバヨカッタコ。

彼女は泣く。これでもかってくらい泣く。声を荒げるでもなく、感情を爆発させるでもなく、私を叩く訳でもなく、ただ悲しみを込めて言葉をつむぎながら、泣く。

ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。

私の声は届かない。彼女は泣く。