てのひらの温度


「そうだ、番号教えてよ」


不意に声が飛んできて、その声が私に向けられたものだと気付くのに数秒を要する。左を見ると、紺が人懐っこく微笑んでいる。


「番号って何の」

「携帯しかないでしょ」

「あ、そう。でも私携帯持ってないから」

「え」

「厳密に言うと置いてきた、駅のコインロッカーに」

「はっ?」


携帯なんてもの、いらない。私の旅には必要ない。煩わしいだけ。繋がってるんだと錯覚してしまう。だけど、本当は、ひとりぼっちだった。


「旅に行くのに携帯置いてきたの?」


紺はまるでカルチャーショックでも受けたかのような驚きっぷりだ。そんなの有り得ない、と言っているのが目でわかる。


「旅に行くから置いてきたんだよ」

「淋しくならない?」

「全然。せいせいした」

「へぇ。それより、どうしてコインロッカーなの」

「実家暮らしだから、携帯見つかりたくないし。調べられでもしたら、それこそ面倒」

「家出なの、ウタ」

「まあそうかもね」