「…馬鹿、みたいだ……」


白い吐息が、冬の空に霧散する。

空しくなって、白いマフラーに顔を埋めた。

そうだ。

期待なんて、しちゃいけなかった。

こんな気持ち、知りたくなんてなかった。

どうして

自覚してしまったんだろう。

こんなのは、私じゃ、ない。


「…みたいじゃ、なくて」


馬鹿だ。

眉間にしわを寄せて、そう呟いた。

くるりと後ろを向いて

大きく足を踏み出す。

自然に足が速く、大股になる。

早く

早く

この場所から消えてしまいたい。


「ちょ、おい!待てよ大高!」


背中に向って、声がする。


「まだ、話…っ」


あぁ

名前を呼ばれただけで。

甘く

心が轟く。

胸が疼く。


「…聞こえない。」

ううん

聞きたく、ないんだ。


「おい!大高…っ!!……っ、咲!!」


名前なんて、聞こえない。

声なんて、聞こえない。

歯を食いしばって

涙目になりそうな瞳を必死に見開いて

歩く。