きぃ…という少し古めかしい音をたてた扉は


温かい夕日色のライトを迎えにいく。



「いらっしゃいませ…


御来店いただきありがとうございます。


ではお席までご案内いたしますね。」


外からは見えなかったが

店主以外にウェイターの男性がいたようだ。


彼が席まで案内してくれる。


歳は私と同じくらいだろうか。


すらりとのびた手足姿勢のいい背中に


すこしどきっとする。


加えて出迎えてくれたときに


綺麗な顔立ちをしているとも感じた。


今流行の塩顔男子だ。


いや、別に好みとか


そういうのではないのだけど


素敵なものを素敵だと認めるのは


大事というか…!


恥ずかしい頭のなかをすっきりさせよう。


ふとカウンターの後ろの壁にかかっている


黒いメニューボードに目をやると


本日のおすすめは


マスター特製のキッシュと書かれている。


マスター家庭的だな…


そんなことを思いながら


ウェイターの彼についていく。



静かな店内では店主…


マスターと呼んだ方が良さそうだ。


マスターと語らう馴染みの客の声や


若い二人組の男女の話し声。


ジャズの音色に混じって


心地よいノイズが落ち着きを膨らませる。


「では、こちらのお席におかけください。



『あっ、ありがとうございます。』


いきなりだったので声が裏返ってしまった…


案内された席に腰を掛けたとき


初めて今いるカフェの風景に


馴染めたように感じた。


案内されたのはカウンター席で


コーヒーのいい香りが


鼻にすっと入ってくる。


「注文のときはお気軽に


声をかけてくださいね。」


爽やかな笑顔を残して


グラスをみがく作業に移る。


まあ、目の前でみがいているので


いつでも話しかけられるのだけど。