「はいはーい」
社長の電話にそんな軽く出られるのって本当ケンさんくらい。
この人が恐れる人とか、気を遣う人っているのか疑問だ。
「おもっ…」
持ち上げた段ボールは何が入っているのか、びっくりするほど重い。
気合いで持ち上げ運んでいると、電話を終えたらしいケンさんに呼び止められた。
「淳、猫が倒れた」
は?
持っていた段ボールが落ちる。
床が抜けそうな音がするけど、気にならないくらいには動揺してる。
「…どーゆーこと⁉︎」
「過呼吸らしい。応急処置したけど意識戻らねぇって」
「行ってくる」
過呼吸…?
ストレスか…。
俺の勝手でなこにストレスかかってた…?
俺も行く、というケンさんの運転でついた3度目のスタジオ。
仮眠用の簡易ベッドに横になったなこがいた。
「何があったんすか」
「打ち合わせはスムーズに進んでたんだけどな…」
社長に詰め寄る。
最近のなこは比較的安定してた。
親からの恐怖はもうないと自覚し始めて、夜も寝れるようになってたはずだ。
俺より先に寝て、俺が家を出るまで寝てたし。
仕事入れまくってたけど、毎日それなりに会話もあった。
社長のとこに住む練習として風呂は別々になったりはあったけど、なこだって練習するって前向きだった。
「無理だったんじゃねーの⁇言っただろ、コイツはライオンじゃねぇ、ただの子猫。守るだけじゃ成長なんてしねぇ、けど崖から落とせば死ぬ」
「…でも」
「16歳だけど、猫の中身は幼いまま止まってる。お前が1番知ってんだろーが」
知ってる。
料理は全然だし、水は嫌いだし、表情だってほとんどない。
それでも他人の変化に敏感で、空白の時間を埋めようと頑張ってて、この前見た微笑みは息を呑むほどキレイだった。
わかってた。
本当は、なこに無理させてること。


