リールの町の大聖堂は厳粛な空気に満ち満ちていた。

ステンドグラスからの色とりどりの明りと、あちこちにたてられたかがり火の灯りが照らし出すのは、中央に設えられた純白の大テーブルと、その前に座すヴァルラム重鎮の面々だ。

彼らは皆立派なひげをたくわえ、大聖堂へと足を踏み入れたリュティアたち一行を睨みつけるような厳しい顔つきでみつめていた。

彼らの足元を飾るのは目の覚めるような緋色の絨毯だ。

足元だけではない、背後にもヴァルラムの王権の象徴たる緋色の旗が等間隔で並べられ、この空間はまさにヴァルラム一色に支配されているかのようだった。

ヴァルラムの老人王エライアスは一番奥の上座に腕を組んで座していた。大ステンドガラスを背景に、やや逆光になったその姿はやはり堂々として、全身から獰猛な獣のような威圧感をかもしだしている。

リュティアはこの時点で完全にこの空気に呑まれてしまっていた。しかも――

「久しいのう、ラミアード殿」

なんとエライアスは開口一番、女王であるリュティアをさしおいて隣のラミアードに声をかけた。それは完全にリュティアが軽んじられている証であったから、リュティアは胸にたとえようもないほど圧迫を受けた。

「お久しぶりでございます。エライアス様」

ラミアードがそつなく答え礼を取る。

「リュティア王女…いや、女王も、久しいのう。元気そうで何よりじゃ」

リュティアもラミアードにならい、礼を取った。足がわずかに震えていた。

「再びお目通りかないましたこと、恐悦至極に存じます。また、聖試合での約束をお守りいただきましたこと、何よりも感謝しております。国王様の恩情なしには、今の我が国はありえませんでしたでしょう」

自分が堂々と言えたかどうか、リュティアには自信がなかった。

「ほっほっ、約束は果たされるためにあるもの」

エライアスが白いあごひげをしごきながらのたまう。

よく言う、と内心でリュティアは―リュティアらしくもなく―毒づいた。一度は和平の約束を破ってフローテュリアを攻めようとしていた張本人ではないか。