―あれ、そうだったか?

カイが首をひねっている間に、ラミアードは懐から何か重厚なつくりの小箱をとりだした。

彼が小箱を開けると、中には親指の爪ほどの大きさの緑色の石が入っていた。光沢があって美しい石だ。

それを見た瞬間、カイは叫ぶように声を出していた。

「…それです! その石です! 二人でその石をみつけたんでしたよね!」

思い出してすっきりしたとカイは思ったのだが、ラミアードは眉根を寄せて首を横に振った。

「何を言っている? これは母の形見さ。美しい場所に来たら、この母の形見にお祈りをするようにしているんだ。カイ、君も祈ってくれないか」

「え………あ、はい………」

―そんなはずがない。それは二人で見つけた石ではないか。

と、思うのだが、カイはなんだか自信がなくなる。自分の記憶は何かおかしいのだろうか。

そう思って所在無げに冬蛍に視線を走らせ、その光にカイは黄泉の国での出来事をはたと思い出した。

黒い雪の記憶。あれは、なんだったのだろう?

「殿下、最近ちょっと記憶がおかしいのです。話すと少し長くなるのですが実は…」

カイはラミアードに、黄泉の国での出来事をかいつまんで聞かせた。話を聞くうちにラミアードの顔がこわばり、青ざめていくのを、冬蛍のほの明るい灯りはカイに見せてはくれなかった。

「何か、思い出さなければならない、大切なことがあるような気がするんです…」

「…………」

カイは何かを求めるように冬蛍に手を伸ばした。だが、蛍が手に触れても、いつかの光る雪のようには何かを伝えてくれることはなかった。