思い出をひとつ感じるたびに、カイはリュティアの気配が感じられるようになってきていた。彼女の放つ気配がだんだん近づいて来ているのを感じられた。だがまだ雪原に人影は見えなかった。

砂時計がさらさらと滑り落ちていく。だが焦ってもどうにもならない。きっとこの先にリュティアがいるはずだ。

カイは駆け、次々と記憶の雪に触れていった。

―母と父を引き離すリュティアへの反感が消えた日。それははじめてまともにリュティアの満面の笑顔を見た日だった。

小さい頃リュティアはひどく泣き虫な子供だった。だからカイの記憶にあるのは泣き顔ばかりだ。その日も、カイ、妹のリィラ、リュティアの三人で遊んでいたが、リュティアは足をもつらせて転んで泣いていた。

『ほら、もう泣くなよ、これをやるから』

カイがそう言って野花を集めた急ごしらえのブーケを渡すと、リュティアはぴたりと泣きやんだ。

『くれるの…?』

頷いてやると、リュティアはぱっと満面の笑みを浮かべたのだ。

『ありがとう! カイ』

花が咲くような笑顔だった。光輝くような笑顔だった。この時だ。この時はじめて、カイはリュティアが大変美しい子供だと意識した…。だが、まだ恋ではなかった。

―恋はいつ始まったのだろう?

カイの疑問に答えるように、次の記憶の雪が大切な記憶を呼び覚ます。