藍色の夜空の傷跡のような三日月が世界を見守る時刻になる頃。

女王一行の夜営の準備はすっかり整い、ずらりと見事なまでに街道脇に白い天幕が並ぶ。

あたりを包む空気はひんやりと冷たい。今にも降って来そうな満天にきらめく冷たい星たちが、本当にあちこちに降ってきて、あたりを冷やしているかのように。

このあたりはすでにヴァルラムに近いので、年中フローテュリアに温暖な気候をもたらす“楽園の風”の影響が少なく、今の季節かなり冷え込むのだ。

カイが護衛官としての最後の仕事を終え自らも就寝の準備をしていると、突然誰かに肩を叩かれた。

見れば、ラミアードだった。

「やあカイ、実は眠れそうになくてね。この近くには何度か来たことがあるんだが、ちょっと足をのばせば綺麗な泉があるんだ。つきあわないか? 一番にそれを見せたい姫君はすでに眠りの国に旅立ったあとのようなんだ」

ラミアードは穏やかそうに見えるが昔から好奇心も冒険心も旺盛だ。きっと単調な旅に退屈しているのだろう。

カイは笑って答えた。

「いいですね。少々お待ち下さい」

カイがランプを持とうとすると、ラミアードはいたずらっぽく瞳をまたたかせてその手をとめた。

「カイ、こういうときはこれだろう?」

ラミアードは近くの松の木の太い枝をもぐと、剣できれいに皮をはがして器用に樹脂の多い部分だけを取り出して見せた。

カイは思わずふふっと笑みこぼれた。なぜ笑ったのかと物問いたげにラミアードが視線を送ってきたので、カイは正直に答えた。

「二人で洞窟探検に行った時のことを思い出していたのです。あれは確か12歳の時ですね。あの時もこうしてじょうずに松明(たいまつ)をつくってくださいました」

松明に火を灯し、二人は並んで歩きだした。

「そんなこともあったな。はは、懐かしい」

ラミアードの笑い声がわずかに白く滲む。