リュティアはいかに昔のフローテュリアを取り戻すかばかりを考えていて、すべて規模が小さくなっただけの国づくりに励んでいた。それに比べてラミアードはどうだろう。言葉の端々から、新しい、より良い国を目指す、素晴らしいエネルギーが感じられるではないか。

リュティアは完全に気後れした。

結局この日の朝議は一言もしゃべらずに終わってしまった。

一方ラミアードは、皆のどんな称賛の声にも驕ることがなかった。

王になるため幼少時代より勉学に励んできたのだ。知識があるのはあたりまえのことだ。理想があるのもあたりまえのことだ。自分が特別すごいわけではない。もっともっと、知識も経験も積み重ねていかねば誠に良い国王とはなれない。

ラミアードはその日の午後も勉学に励み、剣技を磨いて過ごした。すべては王になるために。

主宮殿に与えられた一室のテラスから、ラミアードは降るような星空を見上げる。

今宵は空気が澄んでいるのだろう。乳青色のもやのような天の川がはっきりと見えた。

―王になる。

なりたい、ではない。なるのだ。

それは生まれた時からの決定事項だった。

王になる以外、ないのだ。それは強迫観念にも似た想いだった。その想いだけを胸に、フローテュリア滅亡ののちの苦渋の日々も耐え抜いてきたのだ。

『さすが未来の国王陛下です』

ことあるごとに友人が言った。

『お兄様は王さまになられる方ですものね』

ことあるごとにリュティアが言った。

父も、母もだ。王になること、それがいつでもラミアードの世界を支える柱だった。皆がラミアードを王になる人物として扱ってきた。誰も、王にならないラミアードなど必要としていない。ただのラミアードなど誰の胸にも存在していないのだ。

―いや違う、とラミアードは思った。

誰かたったひとりだけ、自分をラミアードと呼び捨てにする人物がいた――…。

ラミアードは流れ星を見上げながら、その人物との思い出にしばし心遊ばすのだった。