リュティアは我に返ると玉座から立ち上がった。何か言わなければと思った。

「あの…ありがとうございます、グラヴァウン卿、フリード卿」

なんの飾りもないそんな言葉しか思い浮かばず、リュティアはもどかしくなる。―もっと、この胸のあたたかさを伝えられたらいいのに。二人は振り返ると、その場に跪いた。

「出過ぎた発言をいたしましたこと、お許しください」

「わたくしも」

こんな改まった態度をとられると、リュティアは少しおろおろしてしまう。

しかしよく見ればグラヴァウンの頬には気安い印象のにやにや笑いが浮かんでいる。彼はよく通る声でこう言った。

「私も剣を一本なくしたことがございますゆえ、つい感情移入してしまいました。ああ、あの剣、私が三歳の頃大事にしていたあの木剣は、いったいいずこにいってしまったのでしょう。今も夢に見ます」

「グラヴァウン卿…」

それは一聴するとふざけた軽口のようにしか聞こえなかったが、その裏にこめられた思いをリュティアは正確に聞き取った。

―子供のおもちゃと変わらぬたかが剣一本だ、大したことじゃない、しっかりしろ。

リュティアの胸に言い知れぬ思いがこみあげてきて、リュティアは笑った。それはきっと嬉しさだっただろう。心から嬉しいと思った、だから笑顔がこぼれたのだろう。でもなぜ笑顔がこぼれたのか、自分ではわかっていなかった。

ただ、この時はじめてリュティアは、自分が得難い臣を得たのだとわかった。

女王リュティアを中心に、すべてがうまくまわりはじめていた。

宰相フリードが頭脳となり政治を支え、陸軍総帥グラヴァウンが手足となり軍を支える。しだいにそれは揺るぎないものとなってきていた。

王国の繁栄は、約束されていた。

しかし―――