「フリード卿」

いつものように朝議が終わった後、女王が廊下で突然声をかけてきた。普段自分に対して縮こまってばかりの女王にしては珍しいことだった。

「あの、少し話す時間をとっていただけませんか? お願いしたいことがあるのです」

宰相フリードはそんな言葉などまるで聞こえなかったように歩みを止めずに答えた。

「私ごときがご多忙な女王陛下のお時間をいただくわけにはまいりません、失礼」

こう言えば女王は引き下がるだろうとフリードは思った。お優しく穏やかないつもの女王なら必ず引き下がるはずだった。

しかしどうしたことか、今日の彼女はいつもと違ったようだ。

女王はフリードの前に回り込み、進路を塞いできた。

わずかに驚いたフリードの視線は、女王の真剣な視線とぶつかった。

「お時間をいただけないならここで聞いていただいても構いません。実は、私の教師になっていただきたいのです。政治や国やいろいろなことについて、教えていただきたいのです。どうか、お願いできませんでしょうか」

―何を言い出すかと思えば。

フリードは内心でふんと鼻を鳴らした。

どうせ思いつきで言っているのだろうと思ったからだ。

「私ごときではお美しく聡明な女王陛下にお教えすることなど、いたしかねます。失礼いたします」

フリードはけんもほろろに断ると、女王をその場に残してすたすたと歩み去った。