夕刻からの二時間あまりは謁見の時間となる。奇跡の力を求めて、謁見を希望する者たちは長蛇の列を作る。

「右の耳が聞こえんようになってもう長いのです…どうか癒していただきたい」

「わかりました」

聖なる力に満ちたリュティアは最初喜んで治療をした。自分の力が誰かの役に立つのは嬉しかった。

「おお…聞こえる! 聞こえます! 神よ…!! リュティア様、あなた様が神でございます。ありがたや、ありがたや…!」

しかし、こんな時リュティアの胸に再び無視できない痛みが走るのだ。

神殿の人々も、奇跡の力とリュティアを褒めそやす人々も、皆リュティアをまるで神そのものであるかのように崇めていた。

毎日そんなふうに言われ続けると、自分はいったいなんなのかとわからなくなってくる。神なのだろうか。そんなはずないのに。

リュティアがだんだん自分の癒しの力が重いと、おそろしいとすら思えてきたのは仕方のないことだったのではないだろうか。

最初は喜びであった治療が、時を追うごとに辛いものとなってきていた。中には包丁で少し指先を切ってしまったというだけで治療を願い出る者までいたが、リュティアには治療が辛くても彼らを一人として追い返すことなどできなかった。痛みを訴える彼らを、心優しいリュティアにどうして無下に追い返せただろう。

結局毎日、謁見が終わるころにはリュティアはぐったりとなっているのだ。

夕食を済ませればまた執務、執務、執務だ。

いつもはすぐに仕事に取り掛かり胸の痛みも何もかも明日に繰り上げて持ち越せるのに、今日のリュティアは違った。

夜着に着替えるため鏡台の前に立った時だ。

ぴんと張り詰めていた何かが、ぷっつりと切れてしまった。

―疲れた…。

リュティアは思った。それは名状しがたい疲れだった。即位してからの一か月間間断なく押し寄せて来ていた疲れだった。