私室前を近衛として警備してくれていたアクスにあれは何かと尋ねてみると、こう答える。

「はい、今日は陸軍の練習試合が行われる日だったので、今それが終わったのでしょう」

「練習試合? …聞いていません」

リュティアが愕然としたのには理由がある。

軍と国王は互いに深く関わっていると最近学んだ。軍を大切にすれば国王の力は強くなり、国王を心から慕い主と仰ぐ軍もまた強くなる。その相互作用が国を栄えさせる。このような理由から、陸軍の練習試合には国王が列席するのが常識だった。

それなのになぜ連絡のひとつもくれなかったのかと、リュティアは陸軍総帥のグラヴァウンのもとを訪ねて問うた。すると――

「女王陛下のもとへご連絡にうかがいましたが、午睡の最中とのことでございました。大切な女王陛下の午睡を妨げてはならないと思いましたもので」

言葉自体は丁寧だが、グラヴァウンの口調は非難がましかった。午睡などしていなかったのに、リュティアは小さくなるしかなかった。

陸軍総帥グラヴァウン。陽に焼けた浅黒い肌の偉丈夫で、年齢は35歳。

彼はフローテュリア出身だが、ヴァルラムの軍でも副総帥を勤め上げたいわゆるエリート軍人だ。武勇で知られた大国ヴァルラムでの彼の大活躍を思えば、今回の新生フローテュリアへの転職命令は、たとえ総帥職と言えども不本意であったに違いない。

―ましてや女王がこんな自分だ…。

リュティアは肩を落として謁見の間の玉座に座っていた。