朝議が終わると昼食となるが、これも最近は仕事に追われているため執務室にこもって一人でとることが多かった。

今日もアクスお手製の栄養バランスの考えられた素晴らしい食事内容だったが、空いた時間に急いでつめこむそれは味らしい味がしなかった。

「女王陛下」

果物のジュースの最後の一滴を飲み下した直後に、跪き恭しく声をかけてきたのは料理長兼近衛隊に任命されたアクスだった。

慣れたその声から紡がれる“女王陛下”、その呼び名に、リュティアの胸を無視できない痛みが走る。それは不信感にも似ていた。

「昨晩も遅くまで執務に就かれていたご様子。お体に障ってはことです、本日こそは午睡なさってください」

目の前の人物は確かにあのアクスのはずだ。

一緒に旅をしてきたアクスのはずだ。

それなのにリュティアはこのへりくだった言葉を使う人物が誰なのかわけがわからなくなっていた。

料理長兼近衛隊にすぎない彼がこのような言葉づかいをするのはあたりまえのことだ。わかっていても、リュティアにはそれが重い。

しかしその気持ちをアクスにどう言葉にしていいかわからなかった。とにかくアクスが真剣に心配して言葉をかけてくれていることはわかったので、彼を心配させまいと、リュティアはうっすら微笑んで見せた。

「…わかりました。今日はこれから午睡の時間にします。アクスは夕食の準備を優先して、時間があれば私室の前の警備をお願いします」

「かしこまりました」

午睡にすると言ってはみたものの、山と積まれた書類を放り出して午睡する気にはなれなかった。

結局リュティアは一睡もせず、執務室に缶詰めになって夕方まで仕事に没頭した。

やっと手を止め沈む夕陽を眺めていたら、執務室の窓から大勢の人が移動する様子が見え、リュティアは首をかしげた。