「なんじゃ、苦しくない…痛くない、普通に喋れるぞ!」

それは奇跡だった。

ここには長年咳に苦しんできた町長を見知っている人々ばかりだから、皆驚嘆してどよめいた。

その時若い娘の横顔が目に入った。

「え………リュティア!?」

壇上で奇跡の力を披露してみせた娘とは、なんとあのリュティアだったのだ。

いつのまにか壇上にはあの赤い髪の大男の姿もあった。彼は突然手に持った水差しをリュティアの頭に向けて傾け、こう叫んだ。

「見よ、皆の者!!」

それは寒気を覚えるような瞬間だった。

水差しの水に濡れた部分から、リュティアの髪の色が変わっていく…。金糸銀糸を織り込んだような、淡く光放つがごとき見事な桜色に。

人々は皆息をのんだ。

デイヴィは口をあんぐりと開けたまま、言葉が出てこない。

胸の中に、伝説が轟く。知らぬ者とてない“聖乙女(リル・ファーレ)”の伝説。人々の希望として最近頻繁に囁かれる伝説――