「ええ、本日は、おっほん、皆様、お集まりいただき…げほっごほっ…うおっほん」

この時デイヴィは町長のあいさつができるだけ早く終わることを願った。それはデイヴィだけではないだろう。

町長の老人がもう長い間肺を病んでいることを知らない者はいない。彼は何か話すのもこのとおり支障が出るほど重症なのに、こういう場面では出たがりなのだ。

「神に祈り、太陽の到来を待ち望むしだいで…う、うごほっ!」

挨拶の途中で突然町長が体をくの字に折り曲げ激しくせき込んだ。皆またいつもの咳だと思って静かに待ったが、今度の咳は待てども待てども止まらなかった。

あれ、何かおかしいと数人が気付き始めるころ、町長は突然ばたりとその場に倒れた。

「町長!?」

「町長!!」

実行委員の面々が色を失って壇上の町長に駆け寄る。口をぱくぱくと開ける町長の顔色は青紫色だ。

「動かさないでください!」

その時凛とした声が響き、壇上にほっそりとした人影が現れた。

若い娘の後ろ姿だ。

その手に白金のように見えるいかにも高そうな杖を持ち、頭には繊細な鎖の美しい額飾りをしているように見える。デイヴィは少し嫉妬する。―何あれ、ふん、シュミ悪いわ。

若い娘がかがみこみ、町長の胸の上に手をかざした。何をするつもりだろう。

すると――。

その白い掌からぼんやりと淡い光が放たれ始めた。それは決して強い光ではなかったが、人々の心にまであたたかく灯るような不思議な光だった。

どこからかふうわりとした優しい風まで巻き起こり、光を支えるように取り巻き、それらがすべて町長の病んだ胸を包み込んでいく。

人々がざわめく。「何だあの光は」「何この風は」

そして信じられないことが起こった。

その光と風に慰撫されるように町長の顔色が正常に戻っていったかと思うと、町長が呼吸を取り戻してすっくと身を起こしたのだ。