「せっかくの申し出だが、宿はもうとってあるので―」

野太い声と共にリュティアの後ろから見上げる体躯の大男が出てきて、デイヴィは驚いた。いつのまにこんな赤毛の大男を仲間に加えたのだろう。色仕掛けでもしたのだろうか。そうに違いない。

「いいのです、アクス。この宿にはお世話になりましたから、一日だけでも手伝いをしたいと思います」

「乙女(ファーレ)、本気? なぁんか、いやなかんじがするんだけど」

口を挟んだ黒髪の子供もどうやら同行者らしい。こんな子供まで色香でまどわすとは、とことんいやな女だ。

「リューがそう言うなら私も手伝おう」

「カイ!」

横合いから姿を現したカイを見て、デイヴィはたちまち態度を変え、しなをつくってカイにすり寄った。

「また会えるなんて、夢みたいだわ。今日はごちそうをつくるから、ぜひ、うちの宿に泊まってね」

カイの苦笑をデイヴィは優しい微笑みととった。

リュティアと再会したおかげで、デイヴィは祭りを夜の刻限に控えたこの一日を大変楽しく過ごした。

リュティアだけでなく大男や子供、カイも宿の手伝いをしてくれてはいたが、彼らの目を盗みさんざんリュティアで鬱憤を晴らすことができたからだ。

たとえば虫を頭の上に落としたり、わざと足をひっかけて転ばせたり、手の荒れる洗剤に差し替えて食器を洗わせたりした。

やがて夜の刻限になり祭りが始まる時刻になっても、デイヴィは次リュティアにどんな意地悪を仕掛けるかで頭がいっぱいだった。

町の中央広場では冬の冷え切った空気を暖めるように至る所にかがり火が焚かれ、まるで昼間のように明るい。

いくつも建てられたやぐらの上でも赤々と炎が踊っている。

町中の人々が集まり、広場はごったがえしていた。

広場の中央には壇が設けられ、そこで挨拶なり舞の披露なり祈りの儀式なりが行われることになっていた。

デイヴィの宿の出店は壇のすぐそばで、町長の挨拶のあと、暖かい鍋物と焼きたてのパンを格安でふるまうことになっていた。