「あんた、リュティア、リュティアじゃないの」

パンを入れるための大きな籠を町の中央広場へと運びこむ途中で、デイヴィは思わぬ人物と再会した。

間違いない。数か月前自分の宿で一週間ほど働いたことのある旅の娘リュティアだ。

放浪者のくせに儚げな印象が気に障る女である。

リュティアは「デイヴィさん?」とあいかわらず長ったらしい黒髪を揺らして驚いた。その髪はつやつやとして美しく、デイヴィは気に食わない。

―ちょっとキレイだからって調子に乗って、髪にばかり気を使って旅をしているに決まっている。そうでなくてどうしてこんなに輝くばかりの美しさを保てるだろう。

「ちょうどいいわ。人手が足りないのよ。あんた、手伝いなさいよ。宿に泊めてやるから」

言いながら、食事は付かないけどね、と内心ほくそ笑む。

それともまたウジ虫のたかった食事にしようか。そのためには虫がつくように食事を腐らせなければ。冬に虫をたからせるのは一仕事だ。

デイヴィが久しぶりの意地悪にこうまで心浮き立つものを感じたのは、不安のせいもあった。

世界が夜から明けることがなくなって、二月近くが経とうとしている。それだけでも人々が不安に我をなくすに十分であるのに、時折魔月が現れては運のない人間を食らっていくのだから、人々は不安を通り越して殺気立ってすらいた。

もとより貧しく気性の荒いここアタナディールの人々はそれが顕著で、犯罪が増え喧嘩の絶えないこの現状に憂えた町長が、神に祈る祭りを開くこととなった。

祭りはやぐらを組み火を焚き出店を並べ、町の中央広場で今日、大々的に行われる。

デイヴィの宿も出店を出すのでその最終準備のために宿と広場を行き来していたら、リュティアをみつけたのだった。