ここに入る時に感じた恐怖は今カイの胸になかった。

それはここが予想していたような暗闇の世界ではなく、光に満ちた美しい世界だったからだろう。

かわりに純粋な驚きや興味が頭をもたげたが、それはわずかに脳裏をかすめるだけで、彼を占めているのはすべて愛しいリュティアのことだけだった。

―助けたい、助けたい、助けられなければ、自分は…。

強い想いに突き動かされるように足を速め、ふと顔をあげると、カイは階段の導く終着点にたどりつこうとしていた。

そこには10メートルはあろうかという巨大な純白の扉が見えたが、カイはそれよりも狐につままれたような面持ちで思わず振り返って自分が歩いてきた階段を眺めていた。

確かに少し物思いにふけってはいたが、あれだけ頭上に連なっていた階段をすべてのぼりきったとは到底思えない。階段がカイの想いに呼応するように縮んだのだろうか。なんと不思議な場所だろう。

カイが顔を戻すと純白の扉が軋んだ音を立てて開いて、中に違う階段から来た人が一人吸い込まれていくところだった。

この光の世界の中でその扉は唯一重さのある物質的な存在に見えた。しかしその先は虹色の光の渦だ―一体どこに通じているのだろう。リュティアはそこにいるのだろうか。

カイが徐々に見上げるようにしながら扉に近づいていくと、不意に扉の前で影が動いた。