「リュー、とりあえず危機は乗り切ったようだな」

「なんて無茶をなさるのです! 心臓が止まるかと思いました!」

「許せ。すべてカイのせいということにしてくれ」

「な…なぜ私のせいなのです」

ばか正直にうろたえるカイが面白くて、ラミアードは声をあげて笑った。腹の底から笑いたい気分だった。真実の王にはなれなかったが、再び大切な友を得た。それが嬉しくてならなかったのだ。だから―

「お兄様、何はともあれ、おめでとうございます」

だからリュティアが急に居住まいを正してそう言った時、首をかしげてしまった。

「王の宝は、お兄様を選んだのですね」

ラミアードは目を丸くする。

それは違うと言おうと思った。しかし妙なことに気がついた。そういえば宝剣アヌスを握りしめたままの右手が、もう痛くないのだ。

―なぜだ…?

ラミアードはその時何か不思議な力に導かれるように、アヌスをゆっくりと持ち上げていた。そう、それはラミアードを生涯不思議がらせる特筆すべき出来事だった。彼は確かに何かに導かれ、気がつくとアヌスを天に掲げていたのだ。

そしてその時、曇天を割って、一筋の光が差し込んできた。

それは黄金の宝剣アヌスとそれを手にするラミアードをまっすぐに照らし出した。

神々しい一瞬だった。

寒気がするような一瞬だった。

人々は皆呼吸を忘れた。まばたきを忘れた。

人々の脳裏を、大巫女ラタユの神託がよぎる。

―“王の宝 天に掲げし時 天空より一条の光下りて 真実の王を示さん”。

人々は次々と、ラミアードの前に跪いた。カイも跪いた。リュティアまでもが跪いた時、ラミアードはやっとこの出来事の意味に気付いた。

ラミアードは呆然としながら、跪くリュティアの涼やかな声を聞いた。

「こうなった場合のことはずっと考えていました。そしてどこをどう調べても、王国に王は一人という決まりはないことがついさっきわかったのです。宝が認めし真実の王よ、たった今からあなたにフローテュリアの二人目の国王として即位していただきます! 時が満ちれば私は退位し、あなたがこの国を平らかに治める唯一の国王となりましょう」

ラミアードはひれ伏す人々をみつめながら、信じられない思いでいっぱいだった。

だが確かに、宝剣アヌスは神託どおりに王を選んだのだ。王家の血は流れていなくとも、このラミアードを。