「生きて、いたのか……」

ライトは荒い息を整えながら、とぎれとぎれにそう言った。

リュティアは思い出した。彼が再び自分の前に現れた目的といえば、ひとつしかないことを。だから左手に抱えていた錫杖を構え、精一杯ライトをにらんだ。きっと睨めていたと思う。

「また、私を殺そうというのですね」

今度は戦うつもりだった。戦いたくなくても、どんなにいやでも、戦うつもりだった。大人しく殺されるわけにはいかなかった。

だが、聖なる力を使おうと身構えたところで、おかしなことに気がついた。

ライトが剣を持っていないのだ。腰に差してもいない。それどころかいつもの銀の鎧すらまとっていない。結界の中では魔月の力は使えないというのに、いったいなぜ…?

何か変だとはっきり認識したその時、リュティアは強い力に抱きすくめられていた。

草原を吹き渡る風の匂いがリュティアを包んだ。

固い胸板の感触がリュティアの頬にきつく押し当てられた。

それは息も止まるような抱擁だった。

「…よかった…」

すぐ耳元でライトの声が響く。全身に彼のあたたかな体温が感じられる。

リュティアは気が遠くなった。

彼の言葉の意味が理解できない。この状況が理解できない。混乱を極めるリュティアの唇からひとりでに言葉がこぼれおちる。

「…ライト様…?」

それは彼の胸の上でくぐもって声になっていなかった。

身じろぎひとつできないリュティアの体をさらにきつく抱き締めながら、ライトはリュティアにさらなる混乱をもたらした。

彼は囁いたのだ。

「…好きだ……」

―え………?

「…お前が好きだ」

どこか苦しげなその囁き。リュティアはこぼれんばかりに瞳を見開く。