「うわ!」


慌て起き上がり自転車を起こした。
倒れた衝撃で前に付いてるカゴの部分が少しへこんでいて、それを見付けた瞬間傷付いたカゴ以上にへこんだ。

……最悪。これ買ったばかりの新品なのに。

もう今日はとことんツいてないと落胆している中でもさわさわと揺れる木の葉。

どっしりとした太い幹は先程の強い風にも当然負ける事はなく。それが妙に腹立たしかった。
いっそこんな木も風に吹き飛ばされちゃえば良かったのに―――…と自分でもよく分からない八つ当たりを心の中でしつつ、もう帰ろうと左ポケットから自転車の鍵を取り出した。



「帰んの?」


……鼓膜を軽快な声が叩いたのは、その刹那だった。

突如聞こえてきた人の声に体全体が硬直し、心臓は大仰なまでに跳ね上がった。


視線をゆっくりと声のした方へ向かせる。

静かに吹き続ける風が世界を揺らす。