無言で今度は横腹にグーパンチをお見舞いすると、高橋幸満は殴られた場所をおさえながらまだ笑ってる。うん、やっぱりこいつドMだ。
「あんたってさ…」
「ユキ!ユキって呼んで!」
「…ユキってさ、イライラする事ないの?」
「イライラか~。今はあんまりないかな~」
「悩みなさそうだもんね」
「ひっでー!俺にも悩みのひとつやふたつあるわ!」
「例えば?」
「そうだな~…」
開いた口を閉ざした高橋幸満は、視線を下にさげ目を細めた。
それと同じタイミングで、いつの間にか家に着いていた事に気付く。
行きは寒いし長く感じたのに、帰りは一瞬のように感じたな……
「八重が振り向いてくれない事かな。俺に」
そんな事を考えていると、ふと耳孔に浸透した低い声。
視線を、顔を、ゆっくりと高橋幸満に向ける。
彼はそれまでの笑顔を消し、至極真面目な顔付きで私を見た。
