高橋幸満の声は坦々としていた。悲しむでも苛立つでもない、一定の声音。
だからかもしれない。
だからこそ、すっと頭に入ってきたのかもしれない。
「そうかもね」
「え?」
「……なんでもない」
甦る。過去が。昼間なのに置き忘れられた月のように、ぼんやりと。
私はあの事件の日から、どれだけの人に大変だったねと言われてきただろう。
どれだけの人に、気持ちだけの励ましをもらっただろう。
どれだけの人に、可哀想という言葉を、視線を向けられてきただろう。
「八重?」
戸惑い……より、心配さを孕んだ声にハッと我に帰る。私は今、どんな顔をしていたのだろう。
なんでもないと言いながら立ち上がる。その際ライムがクゥーンと鳴き、その鳴き声もあまりに可愛くて頬が緩んだ。
