聞き覚えのある声だった。正確に言えばこの一週間で聞き慣れてしまった声だった。
「やっぱり八重だ!偶然!何してんの!?」
十字路となっている右側の道から人が走って来る。夜の闇に陰っていたその人物は私のすぐ側で足を止めた事で輪郭がよく見えた。
「……高橋幸満」
「わ、やっと名前で呼んでくれた!」
「……」
「でもなんでフルネーム?ユキでいいよ?」
「呼ばないわよ」
「え~?手厳しいな~」
「……」
「つか、本当八重何してんの?こんな時間に一人なんて危ないじゃん」
「危ない事なんてないわよ、こんなド田舎で」
「でも――…」
「あぁもう、煩いな!そっちこそこんな時間に……」
何してんのよ、と噛み付こうとした言葉は、ふと目についた高橋幸満の足元に喉奥で消えた。
クゥーンと小さく鳴いた、柴犬のようで、でもきっと雑種であろう中型犬。
犬の散歩をしていたんだと分かったけど、私は視線を犬から逸らせなかった。
「あ、こいつ?ライムっていうんだ。可愛いでしょ?」
犬の両足には、以前テレビで見た事がある――――…犬用の車イスがついていた。
