「何が?」

「しらばっくれちゃって~。ユキ君よ。あんたにゾッこんじゃない」

「ゾッこんって…」

「だって転校してきてから毎日毎日八重の席に来ては挨拶して、休み時間の度に話し掛けてくるじゃない」

「あぁ、ほんといい迷惑」

「迷惑って……あんたねぇ。あんなイケメンを前にバチが当たるわよ?」


やれやれ、とわざとらしく両手を上げてため息を吐く美香をよそに、私は鞄から取り出した現国の教科書とノートを取り出す。

好きな教科ではあるけど、この先生の授業は分かりにくいんだよね。

癖なのか、語尾に「だよ」を付けながら黒板にチョークを走らせる40代半の男性教師の説明を、右から左に聞き流していた。



―――――高橋幸満(ゆきみつ)がこの学校に転校してきたのは、今からちょうど1週間前。

朝のHRで担任教師に連れられて入ってきた転校生に、私は目玉が飛び出るんじゃないかってほど驚いた。


『初めまして。高橋幸満です。ユキって呼んで下さい』


万人受けしそうな屈託のない笑顔を浮かべながらそう自己紹介した男は、まさに昨日流星の丘で会った、あの男だったからだ。