無意識に呟いた名前。微かに声が震えていたのは気のせいなのだろうか。


ユキ……あれから何年経っただろう。


流星の丘で出会った彼を思い出す。

『八重』と呼ぶ彼を……


彼の顔を、声を、笑顔を。今でもちゃんと思い出せるのに、頭の中に浮かぶ彼に色はない。

彼と過ごしたひとときは昔のもの。
残像となった過去はモノクロで。


記憶も劣化していくのだと知った。

あんなに大切だった日々も。あんなに輝いていた時間も。思い出だけにすがり付く事なんて出来ないという事も知った。

大人になり、色んな事を知っていく度に、何か大切なものをひとつひとつ落としていってるような気がしてた。


「あんなに悲しかったのにね」


ううん、今も悲しい筈。だって胸が痛いし、苦しいから。

だけど涙は出てこない。

枯れるほど泣いたからとかいい加減泣くのはやめたとか、そんな綺麗な理由なんてなしに涙なんて出てこない。


ユキ。一体、どうしてだろうね?


あなたが死んでも、私はこうして、生きていけてるんだ。