「高橋先生」


呼ばれて顔を上げた。縁が黒い眼鏡の奥の瞳と視線が交わる。


「ちなみに次の作品、何を書くというのはもう決まってますか?」

「え……でも、まだ新しい本が出たばかりで…」

「ですから、ちなみにです」

「……すみません、まだ何も」

「プロットも?」


まだ何も決まってないと言ったのに、プロットなんて作ってる訳ないじゃない。
反論しそうになったのをグッと堪え、「すみません」と謝罪した。


「いえいえ。そうですよね。こちらこそ申し訳ありません……。んー、そうだなぁ。次は婚活をテーマにするのはどうですか?」

「婚活……ですか?」


え?という顔をあからさまに出してしまった。次回作についてこんな風に編集者さんがアイデアを出してくれる事はあったが、婚活なんて思いもよらない単語だったからだ。


「そうです。今流行ってるでしょ。街コン?っていうのとか」

「はぁ…」

「今は婚活のプロフェッショナルなんかもいるそうで。すごいですよね。私の若い頃なんてそんなのありませんでしたよ」