【完】『道頓堀ディテクティブ』

当日。

長堀橋のスタジオはえらく蒸し暑かった。

鈴井あゆなのスケジュールはグラビアの撮影で、俗な表現でいうヌードの撮影である。

ボサボサした髪をキッチリ分けてスーツを着た穆は、ミナミの探偵という職掌柄、ちょいちょい風俗屋なんぞに出入りもしていたので、全裸の女体が目の前に曝されても騒ぎ立てるような素振りもなかった。

むしろアシスタントの役でついてきた大二郎の方が、

「カメラマンってえぇ仕事やなぁ」

などと軽く興奮気味に独りごちた。

さすがに。

一瀬はるかがそれを見て、露骨に嫌な顔をすると、

「…おいっ!」

言うが早いか穆が大二郎を突っ込むようにひっぱたいた。

ひとしきり撮影が進んで、フィルムチェンジの休憩に入った。

その刹那。

茫洋とたたずむ穆やはるかたちに、ツカツカと鈴井あゆなが近づいてきた。

「どうも鈴井あゆなです」

「わたくし、新大阪日報の一瀬はるかといいます」

慣れた様子で名刺を渡すと、

「…もしかして、そちらが例の取材をされてるという?」

「はじめまして、久保谷といいます」

穆も名刺を出した。

「フリーのライターさんなんですね」

「そうなんです」

何せ今回は新大阪日報さんのご紹介をいただきまして、とそこは嘘なく言ってみせた。

「そうですか」

「まぁ立ち話も難ですから」

はるかが促すと前室と呼ばれる休憩スペースへと移動し、

「それにしても撮影って、長い時間じっくり丁寧に撮ってはるんですね」

穆が切り出した。

「やはり皆さんに見ていただく仕事なんで、ポージングとか綺麗に見えるようにしてます」

「やはりそうなると、ストイックに摂生されてたりもしはるんですか?」

「ストイックって訳ではないんですけど、半身浴とかボディクリームとか、グラビアやってる方ならみんなしてるような、ケアはしてます」

そこへ。

「鈴井さん本番でーす」

声がかかる。

「それでは」

彼女が席を立った。

「…どうやら今日のとこはここまでみたいやな」

小声で穆がささやいた。