男は間を詰めた。
構わず大二郎は言う。
「ほぅ、刺すんか? 人間一人ぐらい刺さったとこで、背後から警察に突入されるのが関の山やで」
気づかんのか──大二郎の言葉が止まった。
見た。
明らかに刺されている。
すると。
「…おりゃっ!」
大二郎も右手で男の背後に何か突き刺した。
「へっ…鉛筆削りの肥後守がこんな…とこで…役立つとはな…」
言いながらもたれ掛かるようにズイズイ、死力を振り絞って男を押し出して行く。
「これが…浪速の底力や」
ステップまで押し戻した。
ドアはいつの間にか開いている。
「…見たか底力を!」
男ごと大二郎は階段を落ちて、二人とも外へ投げ出された。
「犯人、確保ーっ!」
声がした。
穆は駆け出して、
「おい、大二郎しっかりせぇ!」
大二郎を抱えあげた。
「…さらばや」
にっこり笑顔をたたえた。
「アホぬかせ、浅傷や」
「…嘘言うたらあきまへんで、クボやん」
と言うと力尽きた。
「おいっ! …葬儀屋が葬式出される方に回ってどうすんねんっ!」
機動隊に穆は引き離される。
救急の隊員が来る。
「…」
首を横に振った。
穆はそのあとの記憶が、スッポリ抜け落ちてしまったらしかった。



