赤いリュックの女は網棚にリュックを載せようとしていた。
が、届かない。
「あ、いいですよ」
背の高い穆が軽々と載せてみせる。
「ありがとうございます」
そういうさりげない気配りのある穆を、彼女は気に入ったらしい。
「…お仕事ですか?」
口跡の綺麗な東京弁で訊いてきた。
「えぇ、…まぁ」
確かに仕事といえば仕事である。
「私は…おじいちゃんの地元がこっちなんで」
「なるほど、帰省ですか…ちなみにどちらまで?」
「私は大阪まで」
「実は自分も大阪まで戻る予定でして」
「すごい奇遇ですよね」
まぁ袖摺り合うも多生の縁って言いますけど偶然ですねぇ、と穆は少しオーバー気味にわざと驚いてみせ、
「自分たちはミナミまでですから、新大阪あたりまで送りましょうか?」
「…実は最終的には奈良に向かうつもりなんです」
「あ、じゃあ難波まで送りますよ」
乗り換えとか馴れてないとややこしいですから──穆は言った。
断られるかと直感したが、
「普段は私、東京に住んでいるんで助かります」
「大阪は勝手が違うから大変でしょう」
何しろエスカレーターの乗り方からして左右が逆なのである。
言葉すら違う。
事務所のまりあでさえ、たまにアクセントや単語で分からないものがあるのか、首をかしげてしまう。
が。
(まぁそうしたもんやからな)
そういった話をしながら、あっという間に宮崎の空港のターミナルにバスは入った。
そこへ。
一番前に座っていた、メガネにチェック柄のシャツを着た男がいきなり立ち上がり、
「これからバスをジャックします」
みなさんは人質です、と男は言い切った。



