「川口」

 久しぶりの会長さんの声に、泣きそうになる。

「会長さん。お話ししたいことがあります」

 涙をこらええて、会長さんと向き合う。

「ここは」

 会長さんがあたりを見回す。

「お父さんとお母さんと、妹のお墓です。聞いてくださいますか、私の話を」

「ああ。全部、聞かせてくれ」

 全部、話した。

 会長さんは何て言うんだろう。怖い。私の前からいなくなることが。

「会長さ……」

 呼びかけようとしたら、会長さんは今まで見たことないくらい幸せそうに笑っていた。

「言っておくが、俺は川口の前からいなくなったりしない。それに、川口が俺から離れていくことも許さない」

「そんなこと、しませんっ」

 そんなことがあるわけない。

「会長さん、一番言いたかったこと、聞いてください」

 大きく深呼吸する。

「榎本紘さん。私の家族になってください」

 聞こえるのはお互いの鼓動だけ。

 会長さんがふと笑って私の腕と引き、自分の腕に囲んだ。

「はい」

 




とても欲しかったもの。会長さんが私にくれたもの。私はきっと、ずっと大切にしていく。