息を引き取った? 死んだってこと?
「もう、いないの?」
 嘘だ。
「おとうさん、も。おかあさんも」
 嘘って言って。
「のどか、も」
 嘘じゃない。知っているはずだ。
「円ちゃん。辛かったね」
 孝おじさんが涙声で私を抱きしめた。
「赤、赤、真っ赤な……」
 そうだ。覚えているだろう。
「円ちゃん?」
 おじさんが私の顔を覗き込む。
「血が、お父さんが私を呼んだの。ケーキ、ごめんって、言った、のっ」
 ダムが崩壊したように、私の目から涙があふれた。
「円ちゃん。大丈夫だよ。落ち着いて」
 苦しい。呼吸がどんどん速くなる。
「川口さん。医者を呼んできてください!」
 おじさんの声もだんだん遠くなっていく。
 お父さん達のとこに行きたいな。
 遠ざかる意識の中、声が聞こえた。
「円、生きて、幸せになりなさい。家族は一つだけじゃないから」
 誰の声なのか考える間もなく、私は意識の底に沈んで行った。