「会長。あいつ、あの女ですっ」

 二階堂が珍しく息を上げている。

「あの女?」

「一之瀬です。一之瀬架純。あの女、円の過去のこと知ったうえで……!」

 あの女……。

「司、二階堂。手を借りていいか。一之瀬……会社ごと潰してやる」

「紘。そこまでしたらまずいんじゃ」

「いや。きっと親も一枚噛んでいる。何が何でも俺と結婚させるつもりだろう」

「そうですね」

「ええっ。二階堂さんも賛成なの!?」

「ですが、会社まで潰すことはないです。……脅せばいい」

「脅す?」

 なるほど。

「つまり、俺たちから手を引かなければ、会社を買収する、と」

「ええ」

「助かった、二階堂。司と準備を頼む」

「紘はどうするの?」

「直接会ってくる」

 二度と俺たちに近づかないように。

「そこで二階堂。菅原と一緒に川口についてやってくれないか。何かあったらいけないからな」

「わかりました。しっかりやってくださいよ」






「紘様からお声をかけてくださるなんて」

「無駄は嫌いなんでな。単刀直入に言う。川口と俺から手を引け。今すぐにだ」

「それは無理ですわ。いずれ父からも縁談が行くはずです」

「なら仕方ない」

 二階堂と司に急いで作らせた書類を突きつける。

「何ですの、これは」

「どうしても引かないというのなら、一之瀬商事を買収する」

「……っ」

 さあ、どうする。

「わかりました……」

「いいか。川口を傷つけたお前を、俺は許さない。……二度と目の前に現れるな」

「……っ」

 泣きながら一之瀬は走り去った。

 早く、川口に会いに行きたい。

「もう、苦しまなくていいんだ、川口」