「川口。今日の放課後、買い物に付き合ってくれないか」

「いいですよ。生徒会の用事ですか?」

 会長さんは忙しいんだな。そういえば、いじめもなくなったし。仕事が出来る人なんだなあ。

「あ、ああ。まあ」

「じゃあ校門のところで待ってますね」

「ああ」

 最近会長さんはよく笑う。麻美と如月先輩が私のおかげって言ってたけど、そうだったらいいなあ。

 あれ? 私、何で。






「かわぐち。待たせたな。行くか」

「はいっ」

 会長さんといると、心臓がうるさい。

 学園近くの大手のスーパーマーケットで会長さんは文具やら何やらを買い込んだ。お金持ちでもスーパーで買い物するんだな。

「会長さん、袋一つ持ちましょうか」

「いや、大丈夫だ」

 あれ。私、荷物持ちじゃないんだ。ならどうして?

 何かまた心臓がうるさくなってきた。

 首を傾げながら信号待ちをする。

 信号が青に変わり、会長さんが歩き出した。そこに、トラックが突っ込んできた。

 あ。ああ。

(赤、赤、赤。みんな真っ赤……)

 会長さんは素早くトラックをかわしたけれど、私の眼にはあの日の光景がフラッシュバックする。

「おとうさん、おかあさん。のど、かあ」

 息が、苦しい。

「川口! おい、川口っ」

 会長さんの声がする。

「川口円! 戻ってこいっ」

 会長さんが肩を大きく揺すった。

「かいちょう、さん」

「よし。できるだけ長く息を吐け」

 会長さんが優しく背中をさすってくれる。

「上手だ。すぐに楽になる」

 私が落ち着くまで、会長さんはずっと背中をさすってくれたいた。

 一人で大丈夫だといったけれど、会長さんは送って行くと譲らなかった。

「今日はゆっくり休め。また明日」

「ありがとうございます。会長さん」

 会長さんが帰り、急に寂しくなる。こんな気持ちは何年振りだろう。

 ピルルル

「はい。川口です」

「川口円さん。紘に近づかないでくださる?」

 誰だろう。

 会長さんを「紘」と呼ぶ、親しげな雰囲気に胸が痛んだ。

「あのう?」

「私は一之瀬架純。紘の婚約者よ。もう彼に近づかないでくださるかしら? ……今日の事故、怖かったでしょう?」

「あ、あなたがっ?」

 何てことを。

「川口さん。あなたといることで、紘の命が危険にさらされる。……あなたの家族のように」

 ドンっと胸を突かれた。

「何で、知ってるの?」

「何でも知ってるわ。紘からはなれなさい。いいわね」

「はい……」

 私はそう言うしかなかった。

 涙が止まらない。

 そうか。私は会長さんが、好きなんだ。どうして私は、大切な人を危険な目に遭わせてしまうのだろう。大好きな人を、一番近くで愛することができないのだろう。

 ならばせめて。

「バイバイ。会長さん」

 会長さんの幸せを遠くから、祈ろう。