うぅ。何ここ。天国?

「円、起きた?」

 あ。

「あ、さみ」

「起きられる?」

「うん。ここって保健室?」

 麻美がいるなら天国ではない。そう思いたい。

「そうよ。気を失ったから……会長が凄く心配していたわ」

「そういえば、会長さんは?」

「んー? 紫苑と外で話してるわ。お姫様を巡って」

 麻美がクスッと笑った。

 私にはよくわからないけれど。

「そっか」

「円。会長といるのは、怖い?」

 ? 何を言うんだろう。

「怖く、ないけど……」

「そう。何かあったら言いなさいよ。一人で悩むよりずっといいんだから」

「うん。ありがと」

「よしっ。あ、戻ってきたみたいよ」

 ガラ、と保健室のドアが開き、紫苑と会長さんが入ってきた。

「大丈夫か、川口」

「はいっ。すみません、食事中に」

 私が笑うと、会長さんは少し困った顔をした。

「川口。話がある」

 紫苑と麻美が顔を見合わせ、退室した。

 大事な話なのだろうか。

「川口」

「はい」

 会長さんの瞳はいつも以上に強い。

「俺は小学生の頃から一度も風邪で欠席したことがない」

 どうしたの急にっ。でもすごいな。皆勤賞か。私は年に3~4回は休んでいたな。

「運動もそれなりに出来るから体は丈夫なほうだ」

 なんですか、その自慢はっ。

「だから」

 会長さんの瞳に捉えられてたじろぐ。

「だから俺はどこへも行かない。川口を置いて行かない」

 会長さん。

「怖がるな」

 会長さんがあまりにも優しく笑うから、私は少し泣いてしまった。






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「川口円。邪魔だわ。紘様の前から消えなさい」

 女は少女の写真にナイフを突き立てる。

「この女は家族が事故で死んでるのね。……車を手配して。さあ、地獄の始まりよ」

 女は形のきれいな口の端を歪めて嗤った。