あじさい~揺れる想い~



授業が始まっても考えるのは、さっき理香に言われたこと。



『ゆかりがおねだりでもしたん?』



私が『おねだり』なんてするわけないやん!



私は、『おねだり』というなんともなまめかしい言葉に顔が熱くなり俯き、シャーペンを走らせた。



それにしても、ほんとに今日はどうしたんやろう・・・。



常に冷静沈着な浩平が、真っ赤な顔をして『手を繋ぐ?』と聞いて来たことを思い出し、手が止まり首を傾げていた。



何かあったのかな?



少し考えていたが、頭に浮かんだ浩平の照れた顔に、表情が緩むのがわかり、思わず教科書で隠した。



午前中の授業が終わり、お弁当を食べながら、すぐにでも雨が降り出しそうな空模様を眺め、浩平が傘を持ってきていないことを思い出した。



「理香、傘持って来た?」



理香が傘を持ってたら、私が駅まで入れてもらって、私の傘を浩平に貸そうかと思い聞いたが、敵は手強かった。



「持って来たよ。何?ゆかりは忘れたの?」



『用意周到のゆかりが珍しいね』とでも言いたげな顔をしている理香に理由を話すかためらっていた。



「いや、私は置き傘があるんやけど・・・」



ためらいながらも嘘はつけずに、しかもなんとも歯切れの悪い言い方となってしまったことで墓穴を掘ることになってしまった。



――理香は表情を見るのが上手い――



私の頭にそう過ぎった瞬間、理香からの攻撃が始まった。



「あんた、谷口先輩に傘を貸して、私の傘に入ろうとしてるでしょ!」



・・・なぜわかる?!



私が動揺するのを見て、自分の考えが合っていたと確信した理香は、さらに続けた。



「私はあてにしないでよ。今日はタケと帰るんやから。谷口先輩を助けたいなら、ゆかりが一緒に帰ればいいやん」



『タケ』というのは、理香の彼氏のこと。



そして、私の考えは全て理香にお見通しだった。




「だって・・・浩平は今日も塾だろうから、それまで図書室で勉強すると思うから・・・」



俯きながら、なおも歯切れの悪い言い方で話す私に、理香は直球勝負を挑んでくるのであった。



「だから、何?それなら、ゆかりも一緒に図書室で勉強したらいいやん!バイトも休みでしょ?」



そう言うと、お弁当に入っていた、から揚げをパクリと食べて、真っすぐな視線を私に向けていた。



――蛇に睨まれた蛙――



とはこのことだ。



私はそう分析はできたが、その鋭い視線を放っている瞳を見ることができずに俯き、言葉を探しまくっていた。



「・・・勉強の邪魔になると思って」



探し当てた言葉は結局この程度で、理香を満足させるものではなかった。



「はい、却下」



頭を横に振りながら言う理香は、なぜか笑顔で・・・まるで、私をいじめるのを楽しんでいるかのようで、その理香の言葉と表情に私は目を丸くするしかできなかった。