「はぁ・・・・・・」

浩平はため息をつくと、私から視線を逸らし、浩平はまだまだ痛いくらいの太陽の光が刺してくる空を眺めた。


「こんな優等生ぶってるから、ゆかりも遠慮してたんよな・・・?いや・・・違うのかな・・・」


私はこの時、浩平が言っていることの意味が全くわからなかった。


「・・・ゆかりは、学校から一緒に帰りたくなかった?」


私は首を横に振った。


「僕は一緒に帰りたかった。ゆかりがバイトのない日は、図書室で一緒に居てくれないかな?とまで思った。

・・・・・・駅までの距離だけでも一緒に帰りたかった・・・。

でも、ゆかりに呆れられるんじゃないかと思って、言えなかった」



浩平がそんなこと思ってたなんて・・・。


「休みの日は、いつも会いたかったし

・・・夜に、ふと、ゆかりの声が聞きたくなる時があったけど、電話もできなかった・・・」



後ろ髪を触りながら、照れ臭そうに言う浩平を見ていると、自分を見ているようだった。



「私も同じ・・・・・・浩平に嫌われたくなくて・・・・・一緒に帰りたかったし、学校へ行く時も手を繋ぎたかったし、お昼も一緒に食べたかったけど

・・・・・・言えなかった。・・・・・・お互いもっと正直になればよかったんやね」



やっと言えた・・・・・・。


今まで我慢して言えなかったことを言うことができ、私の心は少しだけすっきりしていた。



「正直か・・・だったら今、言おうかな・・・」


口角を少し上げて、浩平は私を見つめて言ったことに、「何?」と聞くと、意地悪そうな笑顔を私に向けた。



「キスとかエッチも・・・・・・正直、もっとしたかった・・・」




「な、何を言い出すんよ!!」


私はしどろもどろになりながら、浩平に突っ掛かったが、彼は余裕の笑みを零していた。



「ふふふ・・・」



私が焦っている目の前で、浩平は声を出して笑っていることに驚いた。


「な、何笑ってるんよ!」


私は平静を装おうと思っていたが、どうしてもできず噛んでしまった。


「ほんまに、あいつの言う通りやわ」


えっ?


あいつって・・・・・・渡辺くんよね?


何?


「あいつに、その好きな子のどんな所が好きなのかを聞いたら、『困った時の顔がめちゃくちゃかわいい』って言ってた・・・・・・。

ほんま、かわいい。そんな顔を3年近く付き合って見たことないなんて、損したな・・・・・・あぁ、もっといじめたらよかったなぁ」



真面目で優しい浩平がこんなことを言うなんて・・・・・・。



「アホ」



こんな憎まれ口しか言えなくても、浩平はニコニコししながら私を優しく見つめてくれた。



「こうやって、喧嘩の一つもした方がよかったんかもね」



ホントにその通りかもしれない・・・・・・お互いにもう少し正直に気持ちを伝えあって、喧嘩して、仲直りして、もっと仲良くなっていくんやね・・・・・・。



「そうやね・・・・・・」



でもね、浩平と付き合ってた3年は、すごく楽しかった。



「初めての彼女が、ゆかりでよかったよ」



この言葉がとても嬉しくて、また涙が零れそうになったが、ぐっと堪えようとしていたら、浩平に「そうやって、また我慢する!」と言われ、優しく抱きしめられた。



「これで、ホンマに最後」



そう言いながら、私の頭を撫でる浩平こそ、我慢してるんだと思った。


『別れたくない!』

って言いたいんだよね・・・・・・?



でも最後の最後で私を困らせたくないから・・・・・・引き下がるんやでな?



わかるよ・・・・・・今なら浩平の気持ちが・・・。


でも遅すぎたね・・・・・・。


本当にごめんなさい。


私は浩平の胸の中で何度も何度も謝り続けた。


そして、私達は別々の道を歩き始めた。


もうすぐ8月に入る夏の暑い日、蝉がうるさいくらいに鳴き続ける中、私達は別れを選んだ。



この別れが正しかったのかどうかは、きっとだれにもわからないんだ・・・・・・。



私は家へ帰る道を歩きながら、浩平との思い出に浸り、涙を零していた。