「ごめんね・・・」
理由がわからない謝罪はなおも続いていたが、私はそれに気を留めている余裕なんてなくなっていた。
私の頭を撫でる浩平の手と謝り続ける低い声を目を閉じて感じていた。
「数学を教えてあげるなんて都合のいいこと言ってさ・・・」
耳元で話し始める浩平の声は弱々しくて、私は胸を締め付けられた。
「俺さ・・・・・・今朝、電車の中でゆかりのこと抱きしめてから、
ずっと頭の中がゆかりでいっぱいでさ・・・・・・
塾が休みになったって聞いた時から・・・・・・
もう我慢できなくなってた・・・・・・」
ゆっくり話し出す浩平の腕の力は緩んでいて、私は顔をちゃんと見ようと、体制を整えて、向かい合わせになるように座った。
私が、浩平の方に視線を向けると、真っ赤にして申し訳なさそうな表情の浩平が俯いていた。
「勉強を口実に・・・・・・
その・・・・・・抱きたいからって、
家に連れてくるなんて・・・・・・最低やんな・・・・・」
なんでこの人は、こんなにも正直なんやろう・・・。
そんなこと黙ってたらわからんことやのに・・・。
私の考えていることなど想像もできない浩平は、黙っている私に対して、弁解を始めた。
「言い訳がましいかもしれないけど・・・・・・
家に着いてから・・・・・・
やっぱりちゃんと数学を教えてあげないとって思ったから・・・・・・
制服を着替えさせたんやで・・・・・・」
私は、彼の言っている意味がよくわからなくて首を傾げた。
「だってさ・・・・・・雨に濡れて下着が透けてたから・・・・・・」
思わぬ言葉に私は顔を真っ赤にしたに違いない。
そんな恥ずかしいこと言わないでよ!
心の中ではそう思っていても、口に出すことはできないくらい、胸が高なっていた。
「でもさ・・・・・・俺の服を着せたのが失敗やった」
「えっ?」
浩平の言葉に、私は顔を上げると、真っ赤な顔の浩平が私を見つめて離さなかった。
「その格好・・・・・・やばい・・・・・・かわいすぎ」
そう言って、抱きしめられたが、私には全く理解ができなかった。
この格好のどこが浩平をここまで変えてるの?
どう見たって、子供が大人の服を着てるみたいやん。
私の疑問とは裏腹に、浩平の抱きしめる強さは増していた。

