浩平の父親は医師、母親は看護師なので、学校から帰って来たら誰もいないことの方が多い。
付き合い出した頃は、夜勤明けの母親が、迎えてくれたこともあったが、看護師長になった今では、さすがに夜勤はなくなり、その代わり毎日帰りが遅いらしい。
『浩平、寂しくない?』
以前、私が聞いた時、浩平は『昔は寂しかったけど、今は自由にできるからいいかな』と言っていた。
そう言う浩平が、私の顔を見ないで言ったことで、彼の真意が伺えた。
――本当は寂しいのに――
そう声に出したかったが、出せる雰囲気じゃなかった。
そして、私はその時、浩平と一緒にいることを心に決めた。
浩平の家に来ると、いつもあの時の背中を思い出す。
「ゆかり、制服濡れてるやろ?」
私が思い出に浸っていると、浩平がリビングのドアを開けながら聞いて来たので、現実に引き戻された。
「えっ、ちょっとだけやし、大丈夫やで」
浩平が気を使って、濡れないようにしてくれていたが、激しく降っていた雨に私の左半身は濡れていた。
ブラウスは肌に張り付いていて、正直に言うと、気持ちが悪かったが、浩平に気を遣わせそうだったので、言うことが出来なかった。
「でもさ、風邪引くとあかんから・・・風呂で乾燥かけたらすぐに乾くし。ちょっと待ってて。着替え持ってくるから」
浩平は、私の言葉をやんわりと退けて、着替えを取りに2階へ向かった。

