「やっぱり教室まで行ったの迷惑だった?」
廊下を並んで歩きながら、浩平は私の顔を見て聞いた。
おそらく浮かない顔をしていたのだろう。
「そ、そんなことないよ。ただ、驚いただけ」
そう言うと、にっこり笑い浩平の顔を見上げた。
「そう?それならいいんやけど」
渡辺くんと目が合ったから動揺したなんて、口が裂けても言えないし。
それにしても、あの眼差し・・・。
私は、彼の一度捕らえたら離さないという意志でもありそうな眼差しを忘れることができなかった。
「ゆかり、傘に入れてくれる?」
靴を履きかえた浩平は、雨が降り続く空を眺めると、2年の下足場に来て、私に聞いた。
「え〜どうしようかな〜」
さっきまで、自分の傘を浩平に貸そうとまで思っていた人間とは思えない台詞を口にしていた。
「ゆかり、そんな意地悪なこと言うなよ」
口を尖らせて言う浩平があまりにもかわいくて、思わず笑みが零れた。
「浩平、かわいいね」
こうやって笑い合う姿は、周りから見たら、これ以上ないくらい仲のよいカップルに見えているだろう。

