「あぁ・・・今日もうっとーしい天気やな・・・」


朝、玄関を出て空を見上げると、今にも雨が降り出しそうなどんよりとした雲が立ち込めていて、私の気持ちまで重くなってしまいそうだった。



もうすぐ梅雨なんかな・・・?



6月に入ってから、雨が降りそうで、降らない日ばかりが続き、どうせなら雨でも降ってくれた方が諦めがつくのかもしれない。


そんなことを思っているのに、雨が降ったら降ったで文句を言うのだからたちが悪い。



そして電車に乗れば満員で、ただでさえ湿気に帯びた車内は、サラリーマンの加齢臭が混ざり合い、異様な臭気を漂わせていた。


普段から混んではいるけど、今日は電車が遅延していたせいもあり、いつもよりも車内は混雑していた。



「ゆかり大丈夫?気分悪そうやけど?」



20cmほど上から私のことを見て、心配そうに声を掛けてくれるのは、彼氏の谷口浩平(タニグチ コウヘイ)。


私はその少し茶色がかった澄んだ瞳に吸い込まれそうだった。



本当は、かなり限界に近かったけれど、降りる駅まで我慢するしかないので、弱音は吐かないことにした。


「うん。大丈夫」



そう言いながら笑顔を作り浩平の顔を見上げると、口角をキュッと上げて笑ったかと思ったら、「無理するなよ」言い優しく抱きしめてくれた。





私は浩平の胸にすっぽりと収まった。


急に抱きしめられ、私の心臓は一気に動きを早めた。


心臓の動きよ落ち着け、落ち着けと、目を閉じていると、私の好きな匂いが鼻をっくすぐった。



さっきまでの異臭が嘘のように彼の匂いに包まれた。




この匂い・・・安心する。


彼の匂いと言うよりも、柔軟剤の香りなんだろうな・・・浩平に合った爽やかな匂いなんだ。



私は目を閉じて、身を委ねて、彼を感じていると、彼の心臓が早く鼓動しているのに気付いて、笑みを零した。



余裕ぶってるけど、本当はドキドキしてるんやん。



自分だけドキドキしているのではないことがわかり、私は安心した。