呆然としていて、何分が過ぎたんだろう。
いつの間にか、男の姿もなかった。
伊織はあたしの存在を忌まわしく思って警戒していたが、いまの男はすがすがしいほどに、ユキノしか目に入ってなかった。
不思議と、無視されたとは考えてなかった。
文字通り、ユキノしか眼中になかったのだ。
ホールに戻る足取りは、軽いのか重いのかそれすらも分からない。
たった数十分の間に、自分の心にどんな変化が起きたというのか。
「Do you ask directions?」
はぁ?と思った時には、行先を阻む酒臭い外人がいた。
肩で揃えられた金髪は、艶やか。
上品にすら見える金髪を霞ませるのは、茹蛸のような真っ赤な顔。

