エンビィ 【完】





「言い方が悪かったのなら、謝りますわ」



そして、相変わらず―――、




「あれは“玲奈さんのために”ピアノを弾くことは出来ないって意味でしたの」



耳を疑うことを紡ぎ出す、

桜色の唇。



…………あたしのためには?




「誤解なさらないで」


「……ご、かい…?」


「別に、貴女だけに限ってじゃありませんのよ」


「………」


「私は、この世でただ一人のためにしか弾かないと、そう約束してるんですの」


「……それは、大層な約束ね」


「そうでもありませんわ」


「そのただ一人って…伊織様のことかしらね?」


「まさか。伊織お兄さまのために弾くのなら、誰のためにだって弾きますわよ」


「―――ユキノ」



伊織は少し怒ったような声で、ユキノの髪に触れる。


なんだって…言うのよ。

この世でただ一人のためにしか弾かないって、そんな理由で……この計画をめちゃくちゃにしてくれたわけ。