エンビィ 【完】





音調にも、狂いはない。


指が覚えているから、

鍵盤を間違うことはないが……戸惑っている心が音に出てしまう。



あのクラスメイトが嘘をついたのか。

だからあたしに……幸運を祈るなんて、餞の言葉告げたのか。



あの男許せない。

学校にいられなくしてやる。




滑らかに動く指とは裏腹に、戸惑いの後に頭を支配するのは、そのことだけ。感情と切り離すことのできないピアノの音は――――あたしに恥をかかせた。




パーティが終わる間近、



「本日はお招き頂きありがとう。玲奈さんのピアノも聴けたので満足よ」



伊織とユキノが、あたしの元にやってきた。


わざわざその話題を蒸し返すユキノに、内心で歯噛みしたものの、

睨みつける目だけは抑えられなかった。



「ユキノさんが……ピアノを弾けないなんて思いもしなかったわ」



伊織がいようがいまいが、もうどうでも良かった。