エンビィ 【完】





あたしは純粋な子供がねだるように。

期待に満ちた表情を演じて。



「ね?一曲プレゼントして頂戴」



絶対に断れないように、最大限のおねだりをした。

格の違う生粋のお嬢様であるユキノに、

恥をかかせてあげる。



ユキノは、黒真珠の瞳であたしの瞳をジッと見てくる。探っているようなのに、不快感のない視線は、一瞬だけ宙を仰いだ。


そして紡がれた返答は、




「悪いのだけど、ピアノは弾けませんの」



誰も彼もにとって、予想外の一言だった。

さほど、申し訳なさそうでもない顔でいう。




………は、…ピアノが…弾けない…?


――――衝撃だった。



今までいたお嬢様のなかに、ピアノが弾けない者はいなかった。

無論、ユキノがピアノを弾けないなんて、考えもしてなかった。



けれど―――、

これはこれで、ユキノに恥をかかせられたのかも知れない。