化粧室を占領しているお嬢様たちを残して、パーティ会場に戻る。
………まるで王子様だわ。
男からの物欲しそうな視線。
女からの妬みの含んだ視線。
そのすべての視線から、女を背中に隠して守る伊織。平気な顔でそれをやってのける伊織は、何事もなく周りと会話をしている。
ほとんど笑うことのない伊織。
そんな伊織は、時折その女と対話している時だけ。
その時だけ、口許に笑みを湛えていた。
「玲奈さん」
また…この声。
ブルーのドレスを着て佇んでいるのは若葉。
とろんとした表情で、いやに怪しく笑う。
残念なガラスの靴を持っているのは、若葉も…か。
「シンデレラガールは、若葉さんで間違いないと思ってましたのに……お気の毒に…」
鼻で笑いそうになるのを堪え、思ってもないことを並べ立てる。

