ShortStory

『舞が、俺の家来たってつまんないよ? オモチャもないし』

『私は子供か!』

ピカピカに磨かれた廊下を歩きながらアズマは静かに笑った。

何も無くていいんだ。
アズマと少し話したいだけだから。

私、それだけで十分なんだもん…


『おじゃましまーす』

玄関からすでに高級感が溢れている……気がする。

『こうゆうトコの家賃ってやっぱ高いんだよね?』

『20万くらい』

『はぁ⁉︎』

20万って給料のほとんどが消えちゃうじゃないの!

『うっそ〜』

『え⁉︎ 嘘なの⁉︎』

『さぁね。 適当にくつろいでよ』

部屋が丸ごと高級すぎてくつろげない。
ドレスでも着てなきゃ場違いに感じるよ……

『あと言い忘れたけどテレビだけはつけないで』

『え?』

『約束ね?』

アズマはそれだけ言うとキッチンへ入っていく。

『変な約束……』

その約束のせいか、コーヒーが部屋に届いても何だか気まずかった。
テレビがないとシンとしすぎちゃうし……

『ね、ねぇ! アズマって何の仕事してるの?』

『んー… …内緒』

『ケチ……』

何も教えてくれないんだ。
フルネームも職業も……

『舞はさぁ…… 何でいきなり運命とか言い出したの?』

急に真剣な顔をして、アズマは電源の入っていないテレビを見た。

『記憶があるの。 男の子が歌を歌ってる』

『歌?』

『その男の子は、アズマと同じ声で同じ顔なの。 これって前世の記憶なのかもって……』

馬鹿な事だと思ったんだろうか。
アズマは無言のままコーヒーを見つめる。

『何で急に黙っちゃうの?』

その不安に耐え切れず、アズマの顔を覗き込むと、いきなり腕を捻られそのまま床に倒された。

『ッ痛……!』

『それで舞は俺と赤い糸で結ばれてるって思ったんだ?』

アズマの体温と重みが体にのし掛かる。

恐い。
力じゃ敵わないッ……

『ッ離して!』

抵抗しようと近くにあったテレビのリモコンを手に取る。
その時、誤って電源を入れてしまった。

真っ暗だったブラウン管は光を取り戻す。

私はそこから流れる歌声に耳を……疑った。

『この声……』

恐る恐るアズマの顔を見ると、アズマは皮肉な笑みを浮かべて言った。

『運命なんてないんだよ?』

赤い糸がプツンと、音をたてて切れた。